目次
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  1. 1. 自己紹介
  2. 2. 日本語パートナーズについて
  3. 1. 応募するには?
  4. 2. 応募から派遣までの主な流れ
  5. 3. 派遣されたタイの日本語教育事情
  6. 4. 日本語パートナーズとしての活動について
  7. 1. 日本語の授業
  8. 2. 日本の文化紹介
  9. 3. 地域での日本語教育に関わる活動のサポート
  10. 5. 日本語パートナーズに参加して…

2019年11月24日一般社団法人日本語研究会主催の日本語教師 働き方セミナー【私の現場:海外編・国内編】がヒューマンアカデミー新宿校で開催され、その様子がオンラインでヒューマンアカデミーの全国の校舎に配信されました。

セミナー概要はコチラ

海外編に登壇された中山綾子氏は、国際交流基金の日本語パートナーズでのご経験をお話されました。今回は、その内容をお届けします。

 

中山綾子氏プロフィール

大学卒業後、民間企業で3年間勤めた後、ヒューマンアカデミーで日本語教師養成講座を受講。
その後、国際交流基金の日本語パートナーズに参加。
タイの中高一貫校で7か月間、現地の日本語教師のアシスタントとして日本語クラスを担当。

自己紹介

私は学生の頃は日本語教師という仕事は全く知りませんでした。ただ、国際貢献できるような仕事には興味があったので、大学の姉妹校があるタイに留学して、海外で生活するってどんな感じなのかなというのを、学生の時に体験していました。卒業後はとりあえず海外で働くということは保留にして、民間企業に就職しました。働いていく中で、やっぱり海外での仕事を一度は経験してみたいと思っていろいろ調べていく中で、日本語教師という仕事を知りました。資格があればより海外で働くのに有利になると思ったので、仕事を辞めてヒューマンアカデミーの日本語教師養成講座を受講しました。受講後の進路を考え始めるころに、国際交流基金の日本語パートナーズというプログラムがあることを知って、その時、留学したタイが派遣先として募集が出ていたので、応募して、7か月間派遣されました。

日本語パートナーズについて

私が参加した日本語パートナーズについて紹介します。これは2013年に開催された「日・ASEAN特別首脳会議」で発表された“文化のWAプロジェクト”の一環として、2014年~2020年の間に、日本語教育が盛んに行われているASEAN諸国で、現地の日本語の先生をサポートしながら、“生きた日本語”を教えられる人材を派遣する事業です。

応募するには?

日本語パートナーズになるには、日本とアジアとの架け橋となる志をもっていること、日本国籍を有し、日本語母語話者であること、満20歳から満69歳であること、日常英会話ができること、SNSやウェブサイト等を活用し、情報発信に協力できることなどが挙げられます。気づいた方もいるかもしれませんが、日本語教師の資格があることは条件には入っていません。年齢制限の幅も広く、いろんなバックグラウンドを持った人たちが参加しています。

応募から派遣までの主な流れ

まずは書類審査があります。提出書類の中には推薦状があるのですが、条件によって必要枚数が変わります。
私の場合は、直近で勤めていた会社の上司と、養成講座の先生に書いてもらいました。この書類審査が通ると、集団面接があります。7人くらいいたと思います。面接内容は、現地でどういうことがしたいですか、どんなスキルが活かせますか、現場がこういう場合あなたならどうしますか、といった内容で、どのくらい現実的にイメージできているかや柔軟性が問われているような感じでした。この面接を通ると内定です。内定後は派遣前研修が1か月あります。研修場所は国際交流基金の国際センターがある埼玉か大阪のどちらかで、私の時は大阪でした。
この事前研修では、派遣国の文化や教育について学んだり、生活に必要な現地の言葉を勉強したり、授業に活かせる日本語教育について学んだり、文化紹介ができるようになるための講義を受けます。日本語教育について勉強したことがある人も、そうでない人も、この事前研修で基本的なことを身につけることができますが、日本語パートナーズとして一番大切なことは、日本語教育のスキルよりも日本の魅力を伝えたいという気持ちです。なので、日本語教育に興味があるけどまだ足を踏み入れてない人や、日本語教師として初心者の方には参加しやすいプログラムになっています。

派遣されたタイの日本語教育事情

まず、タイの日本語教育について大まかな流れです。1960年代中頃に大学で日本語講座が開設されました。その受講生の中から日本語教師がでてきて、1981年に後期中等教育である高校の第二外国語の選択に日本語が加わるようになります。そして2001年に前期中等教育である中学で日本語講座が開設されるようになります。2010年には文科系クラスに限られていた第二外国語の履修が、理数系のクラスでも履修可能になりました。その結果、日本語履修者が急増するようになります。

2015年度の調査では、教育機関数606、教師数1911人、学習者数173817人となっています。学習者数の内訳で最も多いのが、中学高校の中等教育で、半数以上を占めています。教師数と学習者数の桁の違いに気づいた方もいるかもしれませんが、単純計算で教師1人あたりの学習者数は90人を超えています。日本語履修者の急増に伴い、教師不足の問題が生じているのが現状です。

タイでは主に、大学で日本語を専攻して日本語教師の資格を取得し、日本語教師になった人と、タイ中等教育公務員日本語教員養成研修を受けて日本語教師になった人がいます。この研修は、タイ教育省による中等教育機関での日本語教師不足を補うための研修で、2013年から2018年までの6年間で200人の日本語教師を養成しました。毎年50人が約2年間の研修を受けて、公務員の資格を得て中等教育機関に配属されていますが、この研修は2017年の3月で終了しています。 

学習者の事情については、学習者内訳で最も多かった中等教育では、第二外国語の履修が必修化されています。始めから日本や日本語について学びたくて履修する人もいれば、人数の関係で他の言語のクラスに入れず、やむを得ず日本語を履修している人など様々です。2015年度の調査では、日本語を勉強する目的で一番多かったのが、漫画、アニメ、J-POPといったポップカルチャーへの興味関心で、次いで日本への観光旅行のためといった内容になっています。

日本語パートナーズとしての活動について

私が派遣された学校は、バンコクのすぐ隣にあるノンタブリー県にある私立中高一貫校です。全校生徒数が約1200人と、人数はあまり多くなく、内359人が日本語を履修していました。M1というのが中学1年生のことで、M6が高校3年生です。中学では専攻はなく1年生の時だけ選択科目として履修でき、高校からは専攻クラスがあります。私は専攻クラスのみ担当しました。日本語クラブはなかったので、文化紹介は授業中の余った時間などでやりました。派遣校によってはクラスや人数も多く、さらに日本語クラブもあってバリバリに活動しました!という人もいましたが、私は割と余裕をもって活動できた方です。現地の日本語教師は3人いて、うち2人が常勤で1人が非常勤でした。常勤2人のうちの1人が私のカウンターパートとして生活の面倒を見てくれて、日本語パートナーズとしての活動の相談などもしました。この先生はもともと英語の教員で、先に説明したタイ中等教育公務員日本語教員養成研修を受けて日本語教師の資格を得たので、英語と日本語の両方授業を持っていました。

私が行った主な活動内容は、日本語の授業のサポート、日本文化の紹介、地域での日本語教育に関わる活動のサポートです。

日本語の授業

日本語の授業では、教案・教材・宿題の作成、発音・会話のモデル、漢字など文字のお手本、会話テストの採点などを行いました。

授業では国際交流基金が制作している教材の「あきこと友だち」と「エリンが挑戦」を使用しました。派遣される国によって使用している教材は異なりますので、事前研修の時に教えてもらえます。

現地の先生が先に新しいことばの意味や文法、文章の意味などを教えて、練習問題など応用部分を私が主担当になっておこないました。

この授業では、教案と授業中に使う教材を準備しました。教案を作る目的としては、授業の振り返りがしやすいということがあります。また、教案を残すことで次に派遣された日本語パートナーズに、良いところは取り入れてもらい、失敗したところは改善してもらい、長い目で見て、よりよい授業を作り上げていくことができるのではないかと思い作成しました。また、その授業構成を参考に、タイ人の先生のみで行う授業でもいいところは取り入れることができると思い記録として作成しました。

教材はプリントを作成したりPPTを作成したりしました。PPTは教科書の補助として絵を使って場面をイメージしやすくさせたり、活動に必要な部分を分かりやすく提示することができるので、生徒達にとって分かりやすい授業になると思い作成しました。例えば、教科書では文字のみで「おなかがすいたんです。朝ごはんを」の続きを適切な動詞を用いて「~ればよかったです。」と書く練習だったのですが、文字だけでは意味が分からない。どうしたら良いか分からない生徒が多いため、絵を使って場面のイメージにつなげたり、動詞の置き換えドリルに練習内容を変えて、クラスのレベルに合わせた内容にして行いました。結果として、PPTを作成することで練習方法が分かりやすくなり、生徒達の授業参加のモチベーションをあげることができました。

日本の文化紹介

私が紹介したのは、浴衣の着付け体験、お弁当作り、年賀状作り、ちぎり絵、風呂敷包みなどです。クラブの時間はなかったので、授業の余った時間や、急遽先生が授業に入れず一人でクラスを受け持った時などに行いました。

地域での日本語教育に関わる活動のサポート

日本語コンテストや日本語キャンプなど、ノンタブリー県やパトゥンタニー県アユタヤ県など同じエリアに区分される地域の学校が集まる機会があるので、そこで試験監督の手伝いやキャンプでの手伝いにも参加しました。

日本語コンテストでは、辞書を引く早さを競うものや、朗読、スピーチなどがあります。パートナーズの派遣校の中には、この日本語コンテストの強豪校とも言えるような学校もあるので、コンテストで入賞させるための指導に入る場合もあります。

 日本語キャンプは同じノンタブリー県にある日本語教育が盛んな学校が行っている行事で、アシスタントとして近隣の学校の日本語教師の先生に声がかかるようです。キャンプではグループごとに日本の文化体験ができるようにしていて、私は風呂敷包みを担当しました。こういう行事に参加させていただけると、タイで活躍する日本人の日本語教師の方たちと横の繋がりができ、学校ごとの日本語教育の話なども聞くことができます。

日本語パートナーズに参加して…

日本語パートナーズに参加して、派遣校や自分の住む地域で唯一の日本人であることが、自分の考えや行動が相手にとって、日本人の考えや行動に見られるということもあって、改めて気持ちが引き締まる思いになったり、自分を通してみた日本が良いものだと思ってもらえた時や、日本語を勉強することへの意識が少しでも変わってくれたのかなっと思えた時はとてもやりがいを感じました。一方で派遣校によっては設備の問題であったり、もともとのカリキュラムの問題であったり、日本語教育への力の入れ方だったりバラバラで、その学校やクラスのレベルに合った授業展開が必要になります。また、現地の先生に比べたら外国人の先生というのは甘く見られがちで、クラスコントロールが思うようにできないことがほとんどです。これは私も感じたことですし、他の先生方も同じことを言っていました。そんな中でどう授業を進めていくか、どうしたら生徒達のやる気を出すことができるのか、というところが大変に感じました。

日本語パートナーズは、教師としてのスキルよりも現場の声に応えることや熱意が求められるので、日本語教師の第一歩として最適だと言えます。活動に悩むことがあっても、国際交流基金の先生やパートナーズの仲間、同じ地域で働く日本語教師の先輩方がいるので、相談できる環境もあって、良い刺激も受けます。海外での日本語教育の現場を知ることができるので、海外を視野に入れている人にオススメなプログラムだと思います。ぜひ挑戦してみてください。