目次
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  1. 1. 先生にも宿題があります
  2. 2. 店名を言っただけで、なぜか教室が大爆笑
  3. 3. 「とんすい」って何かわかる?
  4. 4. 留学生が感じる、心のドア

 

日本人には気づけない。

不思議で面白い日本カルチャーをあらためて教えてくれるのはいつだって外国人。

そして、そんな留学生の悩みや疑問をまじめに受け止める日本語教師。

国境を超えた学生と先生のほのぼの学校生活から、ニッポンを新発見。

 

 

<インタビューに答えてくれた先生>

祝聡子(いわい・さとこ)さん

高校時代にカナダに留学。ホームステイを経験し、外国人とかかわる仕事を目指す。明治学院大学在学中から日本語教師になるための勉強を始め、卒業後、資格取得。2013年から、国内外で多くの学生に日本語を教える。

 

先生にも宿題があります

——日本語教師になられて6年目の祝先生ですが、学生さんから、思いがけない質問をぶつけられることはありますか?

「たくさんあります(笑)。まだ教師になりたての頃、『〜のような』と『〜みたいな』はどう違うんですか? と聞かれて困ったことがありました。

『みたいな』は話し言葉で、『ような』は書き言葉なのですが、さて、どう説明しようかと。当時は、その場ですぐに答えないといけないと思っていたんですが、ベテランの先生でも持ち帰ることがあると聞かされ、正直に『先生の宿題にさせてください』と伝えて、後日、わかりやすいシチュエーションを例文にして教えました。学生は、そうか、先生にもわからないことがあるんだなって、ちゃんと待ってくれます。

あと、もっと基本的な質問だと、『日本には、ひらがなとカタカナがあるのに、どうして漢字まであるんですか?』って」

——おお、タイムスリップして調べなければいけない深い質問ですね。

「そこでホワイトボードに、長めの文章を漢字を一切使わず、ひらがなだけで書いてみたんです。すると、みんな理解するのにすごく時間かかる。そのあと、漢字も交えて書き直したらパッとわかって。漢字があることで、文章の意味を早く把握することができるんだと実感してもらいました」

店名を言っただけで、なぜか教室が大爆笑

 

——留学生にとって、「カタカナ」はどうでしょう?

「日本語で発音する独特のカタカナ言葉は、なぜかめっちゃウケます。『コスプレ』とか『ミーティング』。とくに『マクドナルド』と言っただけで、『先生、おもしろい。わははははは!』と、大爆笑が起きる(笑)」

——メイド・イン・ジャパン外国語が、笑いのツボに!

「ディクテーションといって、私が言ったカタカナの言葉を、聞き取って書かせる練習があるんですが、外国人にとっては音引きがわかりにくいみたいですね。例えば、『コーヒー』がコヒーやコーヒになってしまう。漢字だったら、パソコンで打ち込んでひらがなから変換できるけど、カタカナだと間違えて打っても気づくことができません。

学生にとって、カタカナ言葉は面白い響きだけど覚えにくいという、ちょっとした壁みたいです」

——漢字はどうでしょう?

「漢字圏でない国の学生だと、絵みたいに書いちゃう。『器』って漢字を書くときに、下がロボットの二本足みたいになっていたり、ちょっと面白い。私の名前も『祝』の右上にチョンチョンをつけられることが多いです。先生の名前には、ツノは生えてませんよ〜って」

——先生の名前はちょっと珍しい、「祝」(いわい)さんですよね。

「教室で、『私の漢字の意味わかる人いますか〜』って聞くと、『わかりまーす。おめでとう、です!』と中国出身の学生が言って、みんな笑って覚えてくれます」

「とんすい」って何かわかる?

——逆に学生さんから教わる日本語もあるとか。

「ある時、みんなでお鍋を食べに行った時のこと、ネパール人の女の子が『とんすいが一つ足りません』って言うんです。私の方が『とんすいって何ですか?』って聞くと、先っぽがちょんと出てるお鍋用の取り皿のこと。アルバイト先の居酒屋で覚えた言葉らしく、感動しました」

——私も今知りました。ほお〜!

「アルバイトでお金を稼がなくてはいけない子たちは、みんな必死です。すぐ現場で働かなくちゃいけないから、休み時間も料理名が書かれたメニューを一生懸命に覚えています。その吸収ぶりには驚かされます」

——バイト先での習慣も学校で垣間見えたり?

「私が教室に入ると、『いらっしゃいませ!』って迎えられることがあります。その、『いらっしゃいませ』の発音が、やたらとキレイ」

——スーパーアルバイターだ。

 

留学生が感じる、心のドア

「あとは、ある日突然『ありがとうございます』が『あざーす』に進化(⁉︎)してる男の子がいたり。バイト先でカッコいいなって思った発音は、まねしたくてたまらないみたい」

——そんな学生さんから、バイト先での悩み相談を受けることも?

「ありますね。日本人は最初、とても親切で優しい。だから、もっと仲良くなりたいと思う。『でも先生、日本人のここ(胸)にはドアがあります。そこにカギがかかっている』と。いわゆる、本音とたてまえの文化ですよね。家に遊びにおいでよと言われ、本当に遊びに行ったら、びっくりされちゃったみたいな。

その子はベトナム人の女の子なんですが、ベトナムはそもそも人と人との距離が近いんです。異性であっても友達同士で手をつなぐ文化です。彼女が、『バイト先でも日本人男性と自分から手をつなぎます』って言うから、『それは誤解されます、やめたほうが良いです!』と(笑)。そういう誰に相談したらいいかわからないようなことを、みんな私に聞いてくれます」

 

<後編に続く>


インタビュー : さくらいよしえ  / イラスト : 溝口イタル